手紙 【前編】


●1

母様。

カプスブリーグ本星に来て最初の手紙です。
都は、私が想像していたよりずっとにぎやかです。
軌道上の港には数えきれないほどの船、軍艦、武装騎があふれ、めまぐるしく出入りしています。
マッカサルの港がとても小さなものに思えるほどです。
地上もたいへんなにぎわいです。
軌道エレベーターのように空にそびえる建物がたくさんあります。
中でもひときわ目立って大きく立派なのが宮城です。
カプスブリーグ王家が起源王朝の正当な後継者であることを示す、重厚な、僅かのゆがみもない白亜の円錐塔。
あそこに女王陛下がいるのかと思うと緊張します。
私はその宮城にほど近い親衛隊予備校の寄宿舎に部屋をいただき、なんとか落ち着いたところです。
でも、今夜はなかなか寝付けません。
ようやく私も親衛隊の騎士になれるのだと思うと、気分がたかぶっているのでしょうか。
他の遺伝上の兄弟達よりも3年も入隊が遅れましたが、いよいよです。
予備校で学びながら騎士見習いとして従卒を勤め、階梯を上げ、騎士の席に空きがあれば叙任です。
叙任されれば官位を戴き、役職と領地の継承も許され、正式に皆の当主として名乗ることができます。
遅れた3年分を取り戻し、一日も早く騎士になります。
そして、母様と皆が待つマッカサルに帰るためにがんばりたいと思います。
必ず立派になって戻ります。
どうか、その日をお楽しみに。

コニカ・プロビア
今日から、汎カプスブリーグ連合王国親衛隊従卒


●2

母様。

改めて、都は驚くことばかりです。
話に聞いてはいましたが、ここでは午睡の習慣はありません。朝起きたら昼寝せずに夜まで動き続けます。
午後になると、私は眠くて眠くてたまりません。ギュッと自分の脚をつねってなんとか起きています。
それから、食べ物は似ているようでずいぶん違います。
どんな料理も薄味なので砂糖をかけなければ、ちょっと物足りない感じです。
郷に入っては郷に従えと言いますが、都の流儀に合わせるのは、なかなか大変です。
一度、居眠りしかけて「田舎者はこれだから」と笑われました。それから食事のときのために砂糖の瓶を持ち歩いてますが、これもなぜか皆に笑われます。
マッカサルを発つとき、田舎者だから、と人に迷惑をかけないように注意せよとの母様の忠告、ようやく意味わかりました。
ただ、迷惑をかけている、というのとは少し違うような気がします。
いずれにせよ、私がマッカサルを代表する者だという自覚をもっと強く持ち、恥をかかないように気をつけたいと思います。

今日は初めて本物を使った武装騎の訓練がありました。
通信ケーブルを同時に10本捌く練習を5時間も繰り返したんですよ。
でも、私はちっとも疲れません。
私が乗ったのは、父様が騎乗されていた武装騎と同じタイプだと思います。
とても大きくて、力強い動きに、感動と興奮をおぼえました。
もうすぐこの武装騎で、マッカサルを自分の手で守れるようになります。
そう思うと、どんなにつらい訓練にも身が入るというものです。

まだ、都言葉に慣れず、ちゃんとしゃべれるのか自信が無いので、他の遺伝上の兄弟たちとあまり話せずにいます。
でも、きっとすぐ、彼らとも仲良くやります。
どうかご安心を。
では、このへんで。

コニカ・プロビア
汎カプスブリーグ連合王国親衛隊従卒


●3

母様。

昨日は手紙を出せずに申しわけありません。
私は昨日1日、反省房に入れられていたので手紙を書くことが出来ませんでした。
だけれども、どうかご心配なさらないでください。反省房に入れられたのは私がマッカサルの名誉を守った結果です。決して悪いことをしたわけではありません。
従卒の兄弟がマッカサルを田舎だと侮辱したため、殴り合いになり、ケンカ両成敗として処罰されたのです。

母様は、遺伝上の兄弟と仲良くするように、と手紙に書かれていました。
確かに親衛隊は、騎士も従卒も全員、遺伝上の兄弟です。
しかし一緒に育ったわけではないので、なかなか兄弟のようには思えません。
ましてや誇る邦が違うのであればなおさらです。
もし遺伝上の兄弟たちが、小さなイルフォードのように優しい弟であったり、あるいはマッカサルに敬意を払ってくれるのなら、私は喜んで仲良くしましょう。

以前にも書きましたが、都ではマッカサル言葉がまったく通じません。
親衛隊では命令伝達を優先するため宮廷語を禁じられてるので、公用語・都言葉に慣れるしかありません。
それでも、私は感情的になるとどうしてもマッカサル言葉が出てしまうことがあります。
教導してくださる先輩騎士は、親衛隊の統率のために都言葉だけを使うようにと注意します。
同じ年頃の従卒たち(あれが遺伝上の兄弟かと思うと忌々しい!)は、私が都言葉をうまく話せないことや、マッカサル言葉を笑います。
私には、マッカサル言葉が「田舎くさいことば」などと蔑まれる理由がわかりません。
むしろ、都言葉の冷たさや気取った響きのほうが好きになれません。
父様や母様から教わった宮廷語は優雅で好きです。マッカサル言葉は暖かみがあって親しげで、もっと好きです。
ですが遺伝上の兄弟たちは、そんな私を「山出しの田舎者だ」とからかいます。
マッカサルはスターゲイトの袋小路にある辺境ですが、決して田舎ではありません。
素晴らしい文化と美しい大地。勇敢な民。私の誇れる邦です。
憎き二重帝国の獣どもに何度も宙域封鎖されても、決して屈することなく抵抗を続け、父様は命まで落としながら守り抜きました。
最後まで連合王国と女王陛下との盟約に従い降伏せず、忠誠を示したのです。
その邦を侮辱する無礼がゆるされましょうか? 
それとも、連合王国の中では、マッカサルなど取るに足らない辺境の小さな拠点の一つでしかないのでしょうか?
私が3年も遅れて都に来たその理由に、関心を払う者もいません。
不当な扱いに怒ることを誰が咎められましょう?

ですが、私は反省房の中で、騎士と貴族の公正さを以て自分自身も戒ることを決心しました。
もっと完璧に都言葉を使えるように、そしてもっと都言葉を好きになるように努力します。

包み隠さず我が恥を報告しました。
愚痴や弱音は他人に漏らさず、手紙に書いてよこしなさい、という母様の忠告の意味が、少し分かりました。
ひとりで都に出て来て、寂しさや心細さに落ち込むことがありますが、手紙に書くと色々と気持ちの整理ができます。
母様、どうか私のことをご心配なさらないでください。
私は母様のこと、民たちのこと、それに天国から見ている父様、小さなイルフォードのことを胸に置いてがんばります。
大切な邦を守ることを考えれば、どんなことも乗り越えられると思います。
必ず。

コニカ・プロビア
汎カプスブリーグ連合王国親衛隊従卒


●4

母様。

忠告のお手紙、ありがとうございます。
プロビアは本当に猛省しております。
もう、兄弟たちに対して乱暴ははたらきません。
母様の言葉の一つ一つに、ただただ恥じ入るばかりです。
私はもっと立派な人間にならなければならないと思います。
決して激情にながされたり、自分の欠点に目をつぶり、不遜にふんぞりかえるようなことをせぬよう。
どんな相手に対しても敬意を払い、常に同じ態度でいられるように。
もっと謙虚に。
そうでなければ騎士にふさわしくはありません。

ご心配ばかりおかけして申しわけなく思っています。

愚か者 プロビア



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