| 第1話:『キミの、笑顔・・・』(前編) |
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‥‥‥泣かないで そんなに悲しまないで キミは強い子でしょ 男の子なんでしょ お父さんも‥‥‥そう言ってたでしょ 「‥‥‥はぁ、ハァ‥‥」 また‥‥‥同じ夢だった。 ここに引っ越してきてからというもの、ほぼ毎晩、この夢を見ていた。 誰かが、おだやかな声の誰かが、語りかけてくる夢。 目を覚ました後、不思議な感覚に包まれる夢。 でも、ボクは‥‥‥この夢の事を、誰にも話すことはできなかった。 ボクが目覚めたこの部屋で、ボクは1人きりだった。 「‥‥‥‥」 「‥‥‥フン」 目の前を、1人の女の子が通り過ぎていった。 短い髪の、元気そうな女の子。 ボクが住んでいるアパートのとなりにある、大きな一軒家。 あの子は、そこの1人娘‥‥‥確か名前は、彩乃、とかだったはずだ。 今日は日曜日だから会ってしまったが、普段は滅多に会う事はない。 向こうは私立の幼稚園通い、そしてボクは出勤前の母ちゃんに連れられての保育園通いだからだ。 でも、今みたいなそっけない態度は、母ちゃんに連れられ、引っ越しの挨拶に行った時から、ずっと続いていた。 あの子‥‥‥彩乃は、僕をどこか下げすんだような目で見ていた。 最近何となく、ボクはその理由が分かったような気がした。 あの子は『ボクのような男』が嫌いなんだ。 どこか弱々しい、男の子らしくないボクが。 でも‥‥でも、しょうがないじゃないか! ボクだって好きで“こんな風”にしてるんじゃない。 ずっと、父ちゃんに言われ続けてきたんだ。『男の中の男になれ!』って。 父ちゃんがいなくなるまで、ボクの前から姿を消すまで、毎日のように‥‥‥ ボクの父ちゃんは、もういない。 もう、ここにはいないんだ。 『父ちゃんは天国に行っちゃったんだよ。だからまた、いつかきっと会えるからね、ヒロキ‥‥‥』 母ちゃんが無理して笑っているのは、子供のボクにもすぐ分かった。 それが分かってしまったから、ボクは泣かずにはいられなかった。 父ちゃんは、トラックの事故で死んだ。 もう2度と、家には帰ってこないんだ。 イヤがるボクを連れ回して、逆上がりの特訓をさせる事もない。 ちょっとのビールで酔っ払いながら『男とは何なのか』という話を、えんえん聞かされる事も、もうない。 昔ボクシング部で鍛えたと言ってた、あの大きな手で軽々と抱え上げられる事も‥‥‥もう、2度と‥‥‥ 父ちゃんも母ちゃんも、大型トラックの運転手だった。 北は北海道から、南は鹿児島まで、いつだって日本中を駆け巡っていた。 だからどちらも、病気なんてしているヒマもない、健康の固まりのような人だった。 そんな2人が結婚して、生まれたボクは‥‥‥何故か、昔から身体が弱かった。 すぐに風邪はひくし、暑がりの寒がりで、外に出るのも苦手。 そして何をしても、すぐに疲れてしまう。ううん、身体が言う事を聞かなくなってしまうんだ。 でもそんなボクを、父ちゃんはいつも、背中を叩いて励ましてくれた。 『お前は俺と母ちゃんの息子なんだ! だから絶対、男の中の男になれるぞ!』と。 だが‥‥‥ここには、この狭いアパートの一室には、もう父ちゃんはいない。 ボクと母ちゃんだけなんだ。 そして母ちゃんはボクの為に、2人で生きていく為に、今まで以上に頑張って働いている。 だからここには、あんまり帰ってこない。 そしてボクは、いつも1人でこの狭い部屋にいる。 でもボクは、母ちゃんに何も言わない。 つまらないとか、寂しいとか、そんな言葉は絶対に言わない。 ガマンするしかない。 ガマンするのが、男なんだ‥‥父ちゃんも、いつもそう言っていた。 絶対、泣いたりしちゃいけない。 じゃないと僕は、父ちゃんに笑われちゃうよ。 天国にいる、大きな父ちゃんに‥‥‥ ボクはまた、1人で眠る。 でもまた、枕は涙で濡れてしまうんだ‥‥‥きっと。 ‥‥‥大丈夫だよ キミはそんな弱い子じゃないでしょ だから‥‥‥だから 笑って、笑顔を見せて いつもキミが見せてくれた、あの笑顔を (第1話:完) |
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